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wasedasports.com >  2005年度卒業記念特集 >  二田文智


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 卒業記念特集(16) 二田文智 



 だから僕はやめない

二田文智  人間、いつも華々しい舞台に立てるわけじゃない。特に「相撲」という競技では。日本の国技だ。伝統だ。文化だ。そう言われ続けたのは今や昔の話。相撲人気は下がり続け、大相撲でさえ土日でしか「満員御礼」がでないほどになっている。大男が裸でぶつかりあう相撲。この競技は何万人という観客を魅了するサッカーや野球とは明らかに一線を画す、地味で、簡素で、時代遅れのスポーツなのである。

 「だから」二田文智(教)は続ける。

 「だから、相撲を続けることはヤワなことじゃないんです」。

 普通の大学生だった。なんとなくサークルに顔を出し、なんとなく授業に出て、なんとなくバイトをする。淡々と進む毎日。別に不自由なことはない。

 「だけど、そういう普通から抜け出したいと思ってたんですよね。言葉じゃ言いにくいんだけど何か嫌だなって。ほかにするべきことがあるんじゃないかって。何かできるんじゃないかって」。

 二田がその疑問にぶつかったのは2年生の時。どこかで満たされない生活に欲求不満になっていた。

 「そこで相撲をやろうと思ったんです。親の勧めもあったし。実は僕、中学の時に相撲で県大会に出たことがあるんですよ。他のスポーツはあれだけど、相撲ならなんとかなるんじゃないかって」。

 実に簡単な理由である。自分に自信があるもので勝負する。スポーツに限らず、社会一般の生活の中でも当たり前のことだ。しかし、当たり前のことが当たり前じゃなくなるスピードが二田の場合段違いに速かった。相撲部に入部して間もないころ、そのことに二田は気づく。

 きっかけは練習試合での出来事だった。対戦相手はまだあどけなさの残る中学生。さすがの二田も勝てると思った。ところが。

 「もうコテンとやられましたね。もう面白いくらいに。さすがに勝てるなー。っておもったんですけど。これで一気にヤバイっていう気持ちになりましたね」。希望の光は一転、暗い世界への入り口となってしまった。

 “悪夢”の敗戦後も二田の苦難は続く。とにかく練習がキツイ。四股に股割り、すり足という地道な反復練習の繰り返しの日々である。

 「特につらかったのが監督に監視されているっていうことですかね。ヘマするとすぐ怒られるし。何か嫌いになりそうでしたから監督のこと。今はもう仲良いですけど(笑)」

 二田への障害はそれだけじゃなかった。達城得ひで(スポ4)(※ひでは王へんに秀)、森下弘康(社2)といった高校時代に実績を残した下級生たちが続々と相撲部に加入。試合に出ては負けるといった競技生活を送って二田にとって針のムシロだった。

 「チームには勝ってほしいです。でも僕は勝てないですから。僕の勝ちはチームの計算に入ってないんです」。

 いっそ、辞めてしまおう。と思った。進路のこともある。辞めたとしてもまた普通の大学生活が待っているだけだ。普通の生活を送ったあとはどうなる?そのことはその時考えれば良い。

 3年生の夏、二田は意を決して退部の意志を当時の主将・堀越敬弘(平17人卒)に告げた。もう続けられない。普通の大学生に戻りたい。二田はこの瞬間、「相撲」という競技そのものに嫌気がさしていたのかもしれない。だが、堀越の口からは意外な言葉が返ってきた。

 「何が何でも続けろ」

 堀越の目から光るものが見える。

 「お前が頑張ってるから、俺も頑張れるんだぞ」。

 はっとさせられた。一つは堀越の涙を初めて見たこと。もう一つは自分が誰かに必要とされているという事実に。

 「監督にどやされているときも堀越先輩だけはいつも励ましてくれたんです。堀越先輩にどやされたっていう記憶がないんです。つらいときも頑張れって。だから思ったんです。この人についていけば間違いないって」。

 二田の辞めたいという気持ちは常に「自分」が中心にあった。練習がキツイ、勝てない。でも、それだけじゃあまりにも寂しい人間に思えた。「誰か」のために戦うことの尊さ。そのことを堀越に教えられた。答えは一つしか残っていなかった。

 相撲を続けよう。

 時は流れて2005年11月のインカレ(全日本学生相撲大会)。二田は人生最後の土俵に上がった。うどんをすすい、雑談を繰り返す観客たちにとっては「ニタというワセダの学生が相撲を取る」ということしか目に映っていないのだろう。ひょっとしたら、それすら注意して見ていないのかもしれない。二田は一つ深呼吸を入れた。行司の「待ったなし」の声がかかる。力強く足を踏み出す――。

 「僕にとっての相撲ですか?なんだろうな」。

 相手の腕が二田のまわしにかかる。

 「きっと栄養でしょうね。僕にとっての。色んな意味で僕を太くしてくれた」。

 土俵を割ると二田はまた一つ大きな深呼吸をした。

 3時間後、二田は本紙の取材に対し次のようなコメントをしている。

 「相撲を続けて本当に良かったと思う」。

 11月6日はどんよりとした曇り空。今にも泣き出しそうな様相である。それとは対照的に二田の顔は晴れやかだった。

(中里 顕) 








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